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深まるキスにおとなしく身を任せていると、 やがてゆっくりと上体が傾いでいった。 制服を乱されて身体を這う手のひら、 その順番に、触れ方に、大きさに、 感じた違和感は、すぐに消え去った。 簡単なもんだ。 この1年 穂鷹とは数えきれないほど抱き合ってきたのにね。 そんな生温い記憶なんか、ほんの数分で上書きされる。 それなのに、 心底から忘れたい記憶はいつまでも付き纏い、 忘却は許さないとでも言いたげに 折につけてあたしの内に現れるんだ。 ようやく塞がったカサブタがぴりぴりと剥がれて、 ぱっくり開いた傷口からまた血が噴き出る。 治ることのない無限ループだ。
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