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見た目のワイルドさに反して、 人好きのする笑顔と穏やかな口調は さすが接客業って感じだ。 あたしも余所行きの笑みを顔に貼り付けて ヒロムさんに会釈を返した。 「堂野衣舞です。はじめまして」 「柴崎大夢(しばざきひろむ)です。よろしく衣舞ちゃん」 大夢さんは柔らかに微笑んでお店のドアを開くと、 軽く腰を折り、 すっと伸ばした手のひらを店内へ差し向けた。 「いらっしゃいませ」 え? まじ? いきなりお客様扱い!? うぅー。 『帰る』とは言い辛い。 かなり言い辛い。 てか制服で入っちゃって大丈夫なの? 「イブ行くよ?」 あたしの逡巡なんかどこ吹く風、 これっぽっちも気にかける様子もない王子に手を取られて、 あたしは人生初のダイニングバーに足を踏み入れた。 高校の制服を着て。
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