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「ごめん。うるさかった?」
寝返りをうってこちらを向いたお母さんに
小さな声で問いかける。
「出かけるの?」
お母さんは眠そうに目をしばしばさせながらも
あたしがレインコートを着ていることに気づいたらしく
寝起きの少し掠れた声でそう訊いてきた。
「うん。ちょっと用事。
バイトはそのまま行くことになりそうだから
帰りは夜になると思う」
「んー。分かった」
「じゃあ行ってきま――」
「あっ。いっちゃん待って」
言うが早いかドアを閉めかけたあたしを、
お母さんが慌てた様子で引き止める。
「なに?」
手を止めて視線を向けると、
布団の上で上体を起こしたお母さんは
なぜか少しだけ躊躇する様子を見せた。
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