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あたしは冷め切った表情を面貌に貼り付けて
苦しげに眉根を寄せる穂鷹へ向けた。
「約束を破ったのは。穂鷹だよ?」
声を低くして告げると、
どこまでも澄んだ黒い瞳が悲しみに揺れ
王子の腕を掴んでいた両手が力をなくして離れていった。
だらりと下ろされた無骨な指先に目を向けると、
なぜだか急に胸の奥がぎゅっとなった。
こんなシーンにふさわしいセリフはなんだろうと、
そんなまともなことに考えを巡らせたところで、
欠陥人間のあたしに探し出せるはずもなくて、
あたしはくるりと踵を返して穂鷹に背を向けた。
目を閉じて、
乱れた呼吸を整えた後、
ゆっくりと開いた両目で屋内へ続く扉を見据える。
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