オーディション

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「うーん、どの子がいいかな」  最終候補に残した三枚の写真を前にパリスは頭を抱えた。  彼はこういう時、酷く優柔不断になる。 「ゴージャスなイメージで行くならこの子ね」  あたしは三枚の内の一枚をもう少し彼の手前の方に置いた。 「大臣の娘だし、話題性も十分よ」  しかし、彼は溜め息を吐く。 「何か、オツムが足りなそうなんだよな」 「それじゃ、この子は?」  あたしは最初の写真の上に、もう一枚を重ねた。 「医学部卒の才媛ですって。あ、在学中に司法試験にも合格したらしいわ」  あたしが履歴書から目を戻すと、パリスは横目で机の上を睨んでいた。 「ちょっと、色気に乏しいかな」 「それじゃ、この子しかないわね」  あたしは手元に残った最後の一枚の写真を改めて眺めた。 「ほんと、セクシーな子だわ」  彼は、黙っている。 「本当はこの子にしたいんでしょ?」  パリスは視線を反らすが、否定しないのが一番の証拠だと思う。 「どのみち、貴方が決めることよ」  最後の写真をデスクに放ると、あたしは席を立つ。 「私たちは貴方の決定に従うわ」  エレベーターに向かいながら振り向くと、パリスは再びタロット占いでもするように三枚の写真を並べて呪文のように呟いていた。 「うちのイメージに一番、ピッタリ来る子は……」  ビルを出ると、大臣の娘が黒光りするリムジンに凭れて立っていた。 「あたしが選ばれたら、パパがこの会社の後押しするって」 「それはありがたいお話ですね」  出来る限り従順に答えると、車の排気の来ない方に向かう。  コンビニに入り、いつもの栄養ドリンクの棚に向かうと、才媛に出くわした。 「私を選べば、ボランティアで企業医と顧問弁護士も務めますよ」 「それは頼もしい限りですね」  極力慇懃に応じると、棚に残った最後の一本を取ってレジに急ぐ。  マンションに着くと、写真よりも更に艶やかな女がドアの前にいた。 「もし私が選ばれなかったら、」 女は挑む様に微笑んだ。 「その時が見物ですわ」  こちらが返事をする前に、彼女はしなやかな背を向けて立ち去った。  翌朝、オフィスに着くと、パリスが昨日のままの服で出てきた。 「ヘレナ、僕の決定に従うと言ったね」 「ええ」 「次のイメージガールは、君だ」 (了)
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