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「坊や、あと一ドル足りないわよ」
錆び付いたコインと皺くちゃの紙幣を数え終えた店員が告げる。
まるでクリームドーナツとマッチ棒だわ。
肥り気味の白人女性店員と少年を遠巻きに見比べたリサは可笑しくなった。
「そんな……」
少年はせかせかとジャンパーやズボンのポケットを探り出す。
上も下もずいぶんダブダブだけど、あれ、お父さんかお兄さんのお下がりかしら。
どのみち、意地悪な人から貰ったのね。
新しくてきれいなものしか人に譲ってはいけないって、パパはいつも言ってるわ。
「ちゃんと足りるだけ貯めたはずなのに……」
少年の後ろに並んだ列から尖った声が次々こぼれ出す。
「ねえ、ちょっと、まだ?」
「さっきから、待ってるんだけど」
まるで言葉が本物の小石に変わってぶつかったかのように、少年の黒いウールじみた髪の頭が俯いた。
「とにかく、これでは買えないの」
業を煮やした体で店員のグローブじみた手がコインと紙幣の小山を少年に押し戻す。
「これで足りる?」
リサは変色したコインと紙幣の上に真新しい百ドル札を一枚置いた。
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