54人が本棚に入れています
本棚に追加
「これ、まだ早かったみたいだな」
剥いた梨の最後の一切れを口に放ると、彼は苦笑いする。
「ちょっとね」
答えるあたしの舌の上にも、青臭い甘酸っぱさが残っていた。
洋梨を食べたのは初めてだが、これが食べ頃でないのは何となく察しが付く。
「よく確かめないで買ってきちゃったからさ」
阿建は苦い笑いのまま、湯呑に口を付ける。
その動作でいつの間にか湯呑の底に罅が入っていたと気付いた。
今度、またこいつが来るまでには買い換えよう。
「次は、林檎がいいな」
たぶん、彼も食べたいはずだから、ねだってみる。
「この食いしん坊」
彼があたしの額を指で小突いた。
「あんただって」
すぐ近付いた彼の口から青っぽい洋梨の実の匂いがする。
味と香りは一緒みたい。
「薇薇……」
彼の声が甘くなって、二人は口づける。
最初のコメントを投稿しよう!