シノブ

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 「多額の借金があった男だ…。真面目に働いても金利にすらならない。返せど返せど増えていく。怒号と罵声…。追い詰められた男はやがて自分の人生を悟り、逆襲にでた。ガソリンを巻き、包丁で脅し、火を放つ…。そんなところだ」  銀の騎士は燃え盛るビルの窓を眺めながら葉月に呟いた。  「なぜ、そんなことがわかるの…」  葉月は得体の知れない男を見つめた。冷ややかな仮面が彼の氷のような心情を表しているようで葉月は不気味だった。  「私は全てを見透している。葉月、君のことなら何でも…。ーーーただ、君が私を怖がる必要はないとだけ言っておこう。時期が来れば全て時が解決してくれる」  「緑やシノブのことも?」  「ああ、そうだ。そして、その時が来てもなお、君の言い知れぬ悲しみや憎しみが癒えないというなら…。その時は君の好きにしたらいい」  銀の騎士は胸のポケットから青い薔薇を取りだし、葉月に差し出した。  「青い薔薇は一昔前までは出来ないとされていた。そのため花言葉は『不可能』だった。今はこうして愛でることが出来る…。『夢がかなう』のか『不可能』なのか…」  銀の騎士は、微笑みながら葉月にどうぞと手を差し出した。  「私次第ってわけ?」  葉月は銀の騎士の挑戦を受けるように答えた。
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