シノブ

13/14
前へ
/188ページ
次へ
「そう・・・。君次第」  銀の騎士はそう言うと葉月を軽く抱き寄せた。不意なことに葉月はなされるがまま上半身ごと銀の騎士に持って行かれた。  無防備なまま投げ出された体と奪われた思考で隙だらけとなった葉月のまだあどけなさの残る唇は仮面の下の唇によって塞がれた。  嫌悪と怒りが足のつま先から一気に葉月の頭のてっぺんまで駆け上がる。葉月は仮面の体を引き離そうと両手で押し返した。再び葉月の両目に悪魔が宿る。  その紅いトパーズの開花を待っていたかのように銀の騎士は唇を離すとあの微笑みを湛えた。  「それでいい・・・。君はまだまだ子猫ちゃんだ。正義という言葉ほど空しい言葉はない。法はずるがしこいものに味方し、破る者には無意味だ。ましてその法がすべて正しいなどというのは幻想に過ぎない」  「何が言いたいの?」  葉月は警戒を解かずに赤い瞳のまま銀の騎士を睨みつける。  「実行にはそれ相応の準備が必要ということだ。何事も・・・。  銀の騎士は指を高らかに鳴らした。  促された自分の手の中を覗き込むと薔薇の色が青から赤へ変わっていた。  「少しからかわれたくらいで膨れているようではプロの仕事は難しい…。私よりも数倍長けた猛獣が君の相手になるのだよ、葉月。君がどんな花を咲かせるも自由。どんな色の花を咲かせるかも自由…。」
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加