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ひとしきり暴れた空は嘘のように穏やかになり、棟方家も灯りを取り戻した。
「もう大丈夫よ・・・」
まだ、葉月の胸で震える由香を優しく抱き起し、葉月は由香の頬を指でそっと拭いた。子供のように肩を上下させ、必死で泣きやもうとする由香の姿に葉月は目を優しく細めた。
「さあ、夕食にしましょう。支度するから由香手伝って・・・」
「うん」
由香は残りの涙を自らの腕で拭うと立ち上がり、葉月の横に並んでキッチンに向かった。狭く窮屈な部屋とキッチンではあるが不思議と葉月は邪魔には感じなかった。
二人はいつものように仲良く夕飯の支度に取り掛かった。
次の日、葉月は市場から帰ると荷物を降ろし、急いで富永葬祭場へ向かった。
前日の片付けを行うためだ。ここのところ葬儀が立て込んでいる。早めに片付けないと次の準備が進まないのだ。
片付けといっても葉月の場合は供花二台のみなのだが…。
いつものように国道から一本路地に入った葉月は、ワゴンを駐車場に停めて、横の通用口から葬祭場の中へと進んでいった。
受付の女性に一言挨拶すると、ワゴンから降ろした台車を押して、供花の回収に向かった。
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