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供花を回収すると、台車に乗せ、葉月は、通用口に向かった。
途中、葉月は富永と顔を合わせた。富永はこの斎場の若社長。葉月とは先代からの付き合いで、幼馴染みで兄のような存在である。
「葉月ちゃん。久し振り」
富永は、葉月を見つけると近づき、にこやかに話しかけた。ここしばらくは納品に来ても、事務やら手続きやらで殆ど顔を合わせることがなかった二人。今を逃すと、また仕事が立て込み、話す機会を失う。
「お久し振りです。富永さん。何か?」
葉月は、以前は富永のことを修平と名前で呼んでいた。
幼い頃から、慣れ親しみ実の兄のように慕っていたのだから当然といえば当然である。
しかし、父やシノブの死を境に一変した自分を戒めるために修平を富永とよそよそしく呼ぶようになったのである。
ーーー兄。当然そこには葉月の富永に対する兄以上の感情が邪魔をしているのはいうまでもない。
そして、その呼称は葉月を異性として意識している富永にとっても複雑なものとして受け止められている。
借金を抱え、一人で家族を支えねばならなくなった葉月が、男に寄りかからない人生をわざと声高に宣言しているようで富永は胸を締め付けられるような思いでいた。
「葉月ちゃん。由香ちゃんには言ってあったんだけど…」
富永は葉月の目を見つめた。
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