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「聞いたわ。食事の話でしょ?無理よ。一人で切り盛りしているお店だし、夜は義母の見舞いがあるから…」
葉月は真っ直ぐな瞳を富永に返す。
美しく曇りのない瞳に、気恥ずかしさを覚え、富永が視線を少しずらした。葉月も気まずくなり、富永とは反対の側に目を反らす。
氷の彫刻のように気高く光輝き、非の打ち所のない葉月の瞳は、葉月の心そのものを捉えているように富永はいつも感じていた。
全てを見透かしていて、あらゆる者を魅了して止まない葉月の目。
ーーー反面、魅了した者を凍てついた世界へ誘い、そのまま永久に氷の世界に閉じ込めてしまいそうで怖かった。
どうしても葉月の心の氷を砕きたい、溶かしたい。
最近ごくたまに富永にも事務的以外に葉月本来の優しい笑顔を見せるようになった。久しぶりに見た向日葵のような葉月の笑顔。
もう一度、葉月に咲かせてやりたい。
もう十分葉月は苦しんだのだ・・・。
「・・・いろんなことを君は自分一人で抱え過ぎる。よくない癖だ」
富永はため息交じりに呟いた。
「しゅ・・・、富永さんには関係ないこと。これは私自身の問題なの、ほっておいて…」
葉月は悟られぬように富永に背を向け、台車を押し始めた。富永の声が聞こえぬようにわざと大きな音で転がす。
「待ってくれ、葉月ちゃん。君は幸せから逃げちゃだめだ。幸せになっていい人なんだ・・・、葉月ちゃん!!」
葉月はいったん足を止めかけて、そのまま聞こえないふりをして台車を引き出した。
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