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父の命日。両親の眠る墓に白いバラの花を手向ける葉月。葬儀場への配達の帰り。いつものようなラフな格好のまま、昼下がり。痩身(そうしん)を小さく折りたたんで、片膝をつき黙とうを捧げた。
火を点けた線香は丸まりながら灰を落とし、葉月の来訪を歓迎しているように見えた。
遠い悪夢の日々。葉月の心を煽るように太陽が照りつける。心にできた傷のかさぶた。まだ癒えていないというのに無理に剥がされたような痛み。ここで両親に手を合わせるたび葉月を襲う。
葉月は唇を強くかみしめた。
脈打つ鼓動に合わせるように疼く傷は人間の中に血が通っていることを改めて認識させてくれる。たとえそれが生身の傷でなくても。
長い髪を乱すこともなく葉月は立ち上がると、揺れながら立ち上って行く線香の煙を名残惜しそうに見送り、墓を後にした。もう一か所だけ立ち寄りたい場所があるのだ。
ーーーもう一か所。近くの別の墓地へとワゴン車で移動する。
唯一無二の親友、シノブが眠る墓だ。この墓地から車で15分ほどの距離のところにある。
葉月は運転しながら、シノブのことを思い出していた。
小学生
の時、葉月のクラスに転入してきたシノブと友人になってから8年。本当に心から友人と呼べる人物はシノブしかいなかった。
全てを奪い去った緑への並々ならぬ憎悪が葉月の体を駆け巡っていく。
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