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「葉月、しっかりしなさい。あそこはあんたの家であんたの人生はあんたのものなんだからね、あんな奴のいいなりになることはない」
シノブは葉月の肩を気合十分に一発叩いた。シノブも葉月の心の内は痛いほど理解していた。---あんな奴、緑が我が物顔で棟方家の中で幅を利かせていることを・・・。
亡き母の写真さえ仏壇の奥にしまわれてしまったのだ。葉月の父さえもう何も緑には言わない。父が緑へ意見する量が減ってくると、葉月へのいじめは徐々にエスカレートしていった。
殴る、蹴るなどの暴行も始まっていた。大人しい葉月はただ黙って耐え忍んでいた。逆らえば更にひどい目に合う。ーーー仮に、もしも・・・仮に、緑を殺したとしても義妹の由香が悲しい思いをするのはやるせなかった。ようやく心を開き葉月になつきだしたかわいい義妹。
彼女もまた血のつながっているはずの緑から躾という名の虐待を受けていた。棟方家に来た当初はひねていて、葉月を呼び捨てにして言うことなど全く聞かなかった。自分の身代わりができたぐらいに思っていたのだろう。
転々とする生活から可愛がられた記憶がない。しかし、葉月は辛抱強く由香に語りかけて、優しく接した。裏切られても何度も何度も・・・。更に、怖いお目付け役としてシノブがいた。
二人に毎日挟まれて、由香の心は変わって行く。いつしか二人を「お姉ちゃん」と自然に呼ぶようになっていた。
もしも、私がいなくなったら、由香はどうなってしまうだろう・・・。
遠く夕日が映る川の水面を風が撫でていく。葉月はいつしかぼんやりと由香のことを考えていた。
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