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都会の隙間にジグソーパズルのピースのように埋め込まれた一角にシノブの眠る寺があった。葉月は水を汲み花束を一組携えると、池のほとりを通って、墓地へと向かう。
狭い石畳で舗装された道の両脇には年季を感じさせる墓石がこちらを向いて鎮座していた。奥より三つ手前で葉月は立ち止り、右手を向いた。シノブの墓の前だった。
花束を手向け、線香に火を灯す。見つめる塔婆は雨風にさらされ、煤汚れた顔をしていた。手前にあるシノブの七回忌のものでさえ、もはやその風格を感じさせるほどの面構えであった。
葉月は時の経つ早さを痛感した。毎日同じような仕事をしているが確実に季節は廻り、時は移ろう。あの幼かった由香でさえもう大学卒業を来年に控えているのだ。
葉月は、目を瞑り、墓前に手を合わせた。
---しばらくして、立ち上がるとポケットからタバコを取り出し、火を点けようとして手を止めた。そして、まだ高校生だった時の自分とシノブの面影を思い出し、その思い出と共にポケットの中へ取り出したタバコをしまいこんだ。
「じゃあね、また来るわ」
葉月はシノブの墓にそう言い残すと足早に家路についた。さっきまでの晴天も裏腹に雲行きが怪しくなってきたのだ。
うすら寒い風が葉月の顔を撫でていく。
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