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「きっとシノブさんが怒ってるんだ・・・」
由香は体を一層丸くさせ、葉月の胸の中に納まってくる。
「あなたのせいじゃない・・・。それにもう10年も前の話よ、いまさらシノブがあなたを怨んで出てくることなんてありえない。怨むなら私・・・」
「お姉ちゃんは何もしてない。アイツでしょ、アイツが仕組んでお姉ちゃんを苦しめて、知らずに足を踏み入れたシノブさんの命を奪っていったんでしょ」
「由香・・・」
葉月は由香を胸の中で力強く抱き寄せた。
葉月は急に降って湧いた父の借金のせいで怖い思いをした挙句、自らを弄ばれた。学校も休み、シノブとの連絡も絶っていた。
隙を見て逃げ出した葉月の代わりに心配して見舞いに訪れたシノブ。背格好が似ていたせいもあるのだろう。
葉月が借金取りの男たちと話し合うときには必ず小遣いを緑から渡され、人払いされていた由香。幼いながらも葉月や周りの大人の様子から「獣のニオイ」を嗅ぎ取っていた。
大人の怖さを、男の怖さを見えない恐怖と共に由香は感じ取っていた。
葉月を救いたい。
交番のお巡りは由香を面倒くさいガキ扱いで冷やかに見下ろすと乱暴に被害届の紙を渡し、幼い由香に書くように指示した。イラついたように机をたたきながら、頬杖をして、由香を犯罪者のように見る恐ろしい制服の警官。
由香はあきらめて、一人家路についた。
入れ違いざまに出ていく男たち。慌てた様子。黒い大きなビニール袋。とても重そうな様子だった。
緑が忌々しそうに由香に吐き捨てた。何でもないよ・・・。
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