シノブ

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 胸騒ぎを覚えて、由香は二階に上がる。  葉月は・・・?お姉ちゃんは・・・?  静かな葉月の部屋は何事もなかったようにそこにあった。しかし、それはよく見ると確かな爪痕をくっきりと残している獣の荒らした空間そのものであった。  畳のひっかいたような跡。押入れの歪み、破れ・・・。何かを擦り取ったような跡も散見できた。  由香は思わず、後ずさる。  「何やってるんだい、由香」  後ろから緑に掴まれる。思わず由香は小さく声をあげた。  「いいかい、お前は何も見なかった、知らなかった・・・。いいね?」  強い力で由香は緑に腕をねじりあげられた。由香はただ怖くて、首だけを縦に何度も振り続けた。逆らえば、自分は殺される。  その日の夜、緑の携帯が鳴った。緑は席を立ち、奥へ歩いて行った。由香は食欲などわかず、ずっと皿だけを眺めていた。  「ーーーそうかい。見つかったかい。徹底的に逃げ出さないようにお願いするよ。これから、私のために死ぬまで働いてもらうんだから・・・。それとさっきのあれだけど片がつきそうかい。あんなので足がつくのは私は御免だよ。・・・大丈夫そうかい。よかった。舞島と蟹沢には貸が出来ちまったね、とにかく一安心ならいいよ、じゃあ」  緑は由香を見ながら悟られないようにほっとしたように電話を切った。  その晩、遅く、葉月は棟方家に帰ってきた。葉月を咎めようとした緑は葉月の目を見た瞬間に言葉をなくす。  緑がこの家の支配権を失った瞬間だった。    借金取りの姿もなく、平穏な日々が訪れた。由香は信じられない気持ちでいたのを覚えている。
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