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もしかして、これを記憶喪失というのか。いざ、自分がなってしまうと、それを本当にそう呼んでいいのか分からない。
だけれども、俺はそれから自分についてのことを色々考えてみたが、性別が男なくらいで、誕生日や年齢、親の名前など、全く覚えていなかった。
やはり、この状態を「記憶喪失」と言ってしまっても、いいのかもしれない。
そうすると、ここは何か、記憶喪失の人が集まるリハビリセンターなのかもしれない。となると、さっきの「ここは……?」と言っていた女性の言葉に納得がいく。
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俺はそれでコトを理解したから平静でいられたが、他の人たちは今、自分の置かれている状況に理解どころか、パニックを起こし始めていた。
最初は小さなざわめきで、寝ていた俺を起こしたのだが、今やそのせいでみんなが起きてしまい、ざわめきはこの空間の広さと、そこにいる人数の多さを物語っていた。
・
って、一体どんだけ記憶喪失の奴いるんだよ……
・
俺はそんなことを思いながらも、つまらなさそうに腕を組んで、左足に重心をかけて立った。まぁ、俺がこの状況について大声で言えば、少しはこのざわめきも収まるかもしれない。
かと言って、俺にその勇気はないのは、元の記憶のある自分はそういうのが苦手だったのかもしれない。「消極的」という言葉がお似合いなひ弱な人間だったのかもしれない。でも、どうして今の俺は心の中で自分のことを客観的に洞察できるのか。少し不思議だった。
大きくなっていたざわめきは今やマックスになっていた。ガヤガヤ、ザワザワと
、東京の通勤・通学ラッシュを連想させるかのような音の数々。
俺はだんだんとその音に眩暈を感じ始めていた。おまけに吐き気もして、胸がムカムカする。
俺は組んでいた腕をほどいて、左手を頭にやった。そして手を頭に押し付けて頭痛を治めようとしたが、無理だった。
最終的に重心をかけていた左足がふらついた体を支えるように、1歩前に出た。その状態で何度か荒い息で呼吸をしていたが、もう立っていられなかった。
ついに倒れそうになった体を抑えたのは、いきなりこの空間を照らした明るい光だった――――。
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