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情報と言ったが、やはりそう言うのにも目の前にいる人数が現実離れしていたからだ。目に入った光の〝情報〟が、脳に届くころには〝客観〟という観点でその物事をとらえているからだ。
まぁ、それくらい僕の脳味噌は簡単に騙されるだろう。というより、騙されない方がおかしいくらいだ。そうだな……言うなれば具体的何らかの科学賞をとった人間には「これは錯覚ではない」と言い切れるかもしれない。
それはさておき……。僕は少し背伸びをして、更に視界を高くしてやった。そのことで、みんなには前の人の頭しか見えない状況から、打って変わって、頭の川が見えた。
具体的に、少し上から見たその場所の様子は、人の黒い頭で床が見えないほど、一律に前に向かって一直線であるということだ。
その中には僕のように少し頭の高い者や平均に満たない小さい奴もいるけど、ざっと見、僕らの頭の上に人間が乗っても、スラスラと歩いて行けるくらい自然な平面ができていた。
そして、僕はもう一つ違和感を感じた。今、辺りを一瞥した時にただその見たものを情報として取り入れたのだが、感じてみればおかしい。なぜなら、ここにいる人間全ての髪色が真っ黒だったからだ。
僕は多分記憶喪失だけれども、何故か日本人ということは覚えている。もし自分が西洋人なれば、周りの人間が全て黒い髪をしていたら驚くが、自分は日本人だ。
だが驚くのは、そりゃたとえ日本人でも一人ひとり、その髪の黒い濃さだって違うからだ。茶色が混じっていれば、この大勢の中に若い奴だっている。というか、自分自体確か歳は26歳なはずだ。ならば髪を金髪に染めたり、女なら茶色に染める奴だって半分はいると思う。なのにそれがないのだ。全員、恐ろしいほどに真っ黒。
そして僕はまた新たなことに気が付いた。この中には〝年をとった老人はいない〟のだ。
通りで髪が薄かったり、白い人がいないと思ったと言えば、かなり失礼だろうが、にしてもおかしいのは確かだ。
小さい奴なら中学生くらいの子供から40代のOLのような女に、その夫として歳が近そうな男。でもそれ以上はいない。
更には皆、同様の恰好をして、自分が今ここにいる存在理由が分からない――。
どうやら、これはただの楽しい集会ではなさそうだ――。
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