演劇

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……なにやら、こちらに背を向けてぼそぼそと何事か呟いているエルの姿を認めた。 「……シアちゃん、お、おは…………」 ちょっとした身振り手振りを交えながら、昨日とは少し雰囲気の違う明るい調子で話す彼女は今、どうやら何かの練習をしているようで、しきりに同じ台詞と動作を行っているようなのだが……。 ……いかんせん。いまいち声をよく聞き取れないせいで、エルが何をしているのかがよく分からない。 (エル……?) 俺は頭上に疑問符を浮かべつつも、しかし、同時に彼女が何をしているのかが気になったので、そっと後ろから近付いてみる事にした。 こっそりとローファーから上履きへと履き替えて、鈍い光沢を放つ古い講堂の床を音を立てないようにして進む。 少しずつ歩み寄って行くと、それに伴ってエルの言葉も徐々に聞き取れるようになってきた。 「アリシアちゃん、おはよ。今日も良い天気だね」 ……えっ。 (これって……) ようやく聞き取れた彼女の独り言に、俺が思わず足を止めてしまった瞬間。 キュッ。 上履きと床板が擦れ、大きな音が立ってしまった。 直後に、音に気付いた彼女はびくりと肩を震わせながら振り返り、そして、しっかり俺と目が合ってしまう。 (……ど、どうしよう…………) 瞬く間に胸の内を気まずさで満たされてしまう俺の目の前で、 「あ……っひゃあ!?」
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