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エルは、急速に顔を紅潮させ、同時に酷く狼狽えた様子で大きく飛び退いた。
「あ、あぁ……っ! えっ、えっと、アリシアちゃん。い、今のはね、その、あの……。え、えっと、アリシアちゃん。い、今のは、その…………」
必死に何かを否定しようとするようにバタバタと両手を振りながらも、空回りして、徐々にしどろもどろになる彼女の様子を俺はしばらく目を丸くしながら見守りつつ……。
「……エルちゃん」
おもむろに彼女の名前を口にした。
はっとして、鋭く息を飲み込むエルの深紫の瞳を見据えながら、
「おはよう! 今日もよろしくね」
にこり。
そっと顔を綻(ほころ)ばせて、元気に挨拶。
「え……あっ、うん。よろしくね!」
それに対して、彼女は一瞬だけ戸惑うように視線を彷徨(さまよ)わせ、けれど、すぐに笑顔と共に返事をした。
ほんの少しぎこちない、どこか気恥ずかしそうなその微笑みに、俺は顔を綻ばせたまま、
「じゃあ早速……。今日は、昨日の練習のおさらいからだよね」
手にしていた台本を開いて、一番始めのページをちょんちょんと指で突く。
「うん。とりあえず、今日はもう一回読み合わせをやってから、その後で演技の指導だよ」
心なし楽しげなエルの言葉に頷いてから、こうして、俺は今日も彼女との演劇の練習を開始したのだった。
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