演劇

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「『申し訳ございません』」 「『……いえ、分かればいいんです。ところで、グリフレット。そろそろ本日の“見回り報告”の方を聞かせてもらえないかしら』」 台詞に密かな期待感を滲ませて、見回り報告……と、言う名目の“外の世界のお話”を要求すると、 「『かしこまりました、アデレード様』」 年長者らしい落ち着いた微笑みを浮かべて、二つ返事で頷き、そして、流れるような口調で騎士団長役のエルは本日の報告を開始したのだった。 早朝から始まったエルとの演劇練習が一段落を迎えたのは、実に昼過ぎの事だった。 建物の外から遠い響きを伴って聞こえてくる『学院祭』二日目の午後の喧騒に耳を傾けながら、俺はエルと一緒に制服の上着を脱ぐと、そのまま二人して息をついた。 「「ふぅ……」」 シンクロした吐息に互いに小さく笑い合いながら、講堂の床に腰を下ろした俺達は、やがて、どちらからともなく講堂の出入り口へと視線を向けた。 そんな中で、俺はスカート越しにひんやりとした床板の感触を感じながら、おもむろにぽつりと独りごちた。 「……おなかすいた」 それは、特に何かを考えての言葉では無く、ただなんとなく口から漏れた台詞だったのだが、 「アリシアちゃん?」
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