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次の瞬間、隣でエルが小首を傾げる仕草と共に、不思議そうな眼差しで俺の顔を覗き込んで来たので、
「……な、なに?」
思わず動揺して、いくらか挙動不審気味な反応を返してしまった。
急速に熱を帯びた顔を誤魔化すための、咄嗟に貼り付けた笑みと共に、いささか不自然な調子で応じた俺に向けて、
「そろそろお昼にしよっか」
エルは、何て事の無い表情でそう切り出した。
……やっぱり、聞かれてた。
「……うん」
諦念の混じった笑顔を浮かべて、俺は彼女に頷くと、
「それじゃあ、早く学食行こ? 今なら昨日よりも空いてると思うから」
続けて、開き直って彼女を促した。
立ち上がって、スカートの裾やお尻を軽く払いつつ、練習中に熱くなって脱いだ上着を取りに行こうと壁の方に歩き出そうとして、
「あっ、アリシアちゃん」
けれど、すぐにエルに呼び止められ、俺は歩みを止めた。
振り向いて彼女の顔を見ると、
「あ、あのね……」
彼女は、なぜか少しの間もじもじと逡巡(しゅんじゅん)してから、やがて意を決したような顔と共に切り出した。
「実は、私、今日はお弁当を作って来てて……。それでね、アリシアちゃんの分もあるから、その……」
ちらりと、エルは薄暗い壁際の方を一瞥した。
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