演劇

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彼女と同じ方向に視線を向けると、そこに、何か小さな箱のようなものが置いてある事に気付いた。 よく見ると、どうやらそれは白い布が被せられた籐(とう)のかごのようだった。 「エルちゃん……。わざわざありがとね」 再びエルに向き直って、俺は彼女に礼を言った。 すると、彼女はぱっと顔を明るくさせて……。 けれどもすぐに俯いて、あっという間にその前髪で表情を隠してしまう。 ……それでも、およそ数秒の間、俺は彼女の隠しきれていない口元の笑みや、嬉しそうにぐっと握り込んだ両の拳を見つめてから、 「それじゃあお言葉に甘えて、頂きます」 ぱんっ! と、笑顔と共に軽く手を打ち鳴らした。 「……うん!」 おもむろに顔を上げたエルが、ほんの少しだけ赤みの差した面持ちで俺に頷いたのは、それから間もなくの事だった。 「……それでこの間ね、雑貨屋さんで『イザナギ』の食べ物フェアがやっててね…………」 「あっ、だからこのお弁当なんだね」 講堂の外。 張り出した屋根の下。 心地のいい風が通り抜ける、庭に隣接したテラスの一角で、俺はエルと並んで昼食を摂っていた。 地面よりも少し高くなっているテラスの隅っこで、二人して裸足になって足をぶらぶらさせながら食べいている物は……。 白くて、つやつやしていて、それでいてふっくらとした『イザナギ』原産のアレ。
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