演劇

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もそもそと咀嚼(そしゃく)してから呑み込むと、ハンカチで軽く口元を拭い取る。 こちらのタイミングを見計らって、さりげなくエルが差し出してくれた水筒のお茶を頂いて一息つくと、そのまま、俺はころんと背後に体を倒した。 両手を揃えておなかの辺りに添え、膝から下を宙ぶらりんにした状態で固いテラスに横になると、早くも何とも言えない解放感に体を包まれる。 「すぅ……はぁ……」 そっと目を閉じて、大きく深呼吸。 ……あぁ、これ気持ちいい。 もう動きたくないや。 ゆったりと流れる時間の中で、冗談半分にそんな事を考えていると、 「……ね、ねぇ、アリシアちゃん」 隣からは、なぜか少し心配そうなエルの声。 「どうしたの?」 心持ち間延びした声音で、のんびりと返事をすると、 「あ……頭は、大丈夫?」 …………ん? 「……え、エルちゃん?」 仰向けの体勢のまま、首だけを持ち上げてエルの顔を見やる。 俺の胸の膨らみ越しに、彼女は何かを訴えたそうな表情を浮かべ、もう一度口を開く。 「アリシアちゃん、今、頭は大丈夫? ……その、痛くない?」 ……あ、あぁ。そう言う事か。びっくりした。 つまり、『固いテラスに直に寝転んで、頭は痛くない?』と、彼女はそう言いたかったのだ。
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