演劇

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二、三度、ぱちくりと瞬きを繰り返しつつ、俺は少々予想外の行動を取ったエルの顔を凝視する。 屈託の無い寝顔をこちらに向け、自らの両腕を枕代わりにして眠る彼女は、見るからにとても気持ち良さそうな様子だ。 「…………」 少しの間、俺はそのままエルの顔を見つめ続けてみるが……。 ……けれど、近くからじろじろと観察してみても、彼女の顔色には微塵も変化は見受けられない。 「……エルちゃん?」 そっと小さな声で呼び掛けてみても、特に反応はない。 やはり狸寝入りではないようだ。 もはや、寝つきが良いとか、そんなレベルを超越した寝入り方を見せたエルの事を、俺は更にもうしばらく見つめ続けていると……。 ……なぜだか急に彼女と二人きりであるこの状況の事を強く意識してしまい、そのせいで、途端になんとも言えないいたたまれなさを胸に感じてしまう。 『学院祭』の中心地から大きく離れた、『ロト魔導学院』の辺境である古い講堂。 時折風に乗って聞こえてくるお祭りの喧騒を除けば、ほとんど隔絶(かくぜつ)されているこの場所には今、俺とエルしかいない。 特別な行事のただ中。 まるで時間の流れに取り残されたような小さな講堂の片隅で、秘密の特訓相手の女の子と二人きり、並んで横になっての休息。
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