演劇

39/125
前へ
/500ページ
次へ
ちょんっ。 伸ばした指先が彼女の頬に触れて、気持ちよさげな寝顔がくすぐったそうに綻(ほころ)んだ。 「っ……」 思わぬ不意打ちに動揺して、咄嗟に手を引っ込めてしまった。 (……いや。別に、やましい事をするつもりとかは無いんだから…………) 胸の中で言い訳のように呟いてから、俺はもう一度エルの口元の“お弁当”に手を伸ばそうとする。 ……けれど、なぜだろう。 今度は数秒前のように、なかなか彼女の顔に手が伸びない。 やはり変に意識してしまったせいだろうか? 一度、四つんばいのまま大きく深呼吸をして、それから改めてエルの顔を見るも……。 すぐに、なんとも言えない気恥ずかしさに心の中を埋め尽くされてしまう。 どきどきと、耳元で心臓の音がうるさい。 指先が小刻みに震える。 顔が熱い。 ……あぁ、もう。 ふるふると頭を振ってから、再度、目の前を見据える。 (ちゃんとしろよ、気持ち悪いぞ) 言い聞かせるように内心で呟いてから、俺は今度こそ腕を伸ばした。 すっと、さりげなくエルの口元へと……。 「ねぇねぇ! アリシアちゃん何やってるの? 『学院祭』フケて女の子とデート? それともこんなところに二人でシケこんで不純同性交遊?」 ……背後から元気いっぱいの声が聞こえた瞬間、完全に自分の中の時間が停止した。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

368人が本棚に入れています
本棚に追加