演劇

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改めてフウと向かい合って、もう一度何をしているのかを尋ねようとした時。 「こんにちは、アリシアさん」 またも、視界の外から聞き覚えのある声に名を呼ばれた。 俺はくるりと向き直って、呼び掛けて来た相手の姿を捉えながら、 「……こんにちは、リクくん」 フウと同じく元パーティーメンバーで、リーダーのリクに挨拶を返した。 講堂の陰から音も無く現れた彼は、その人当たりの良さそうな灰色の瞳を苦笑気味に細めて、 「ごめんね。フウがいきなり変な事しちゃってさ」 ぽりぽりと頭を掻きつつ、子どものイタズラを詫びる親のような態度で謝罪して来た。 のだが、 (……おい。見てたなら止めさせろよ。なに全てが終わった後でヘラヘラ謝ってんだ) フウによる“変な事”の被害者である俺からしたら、正直、彼の言葉には苛立ちと羞恥心しか湧いて来なかった。 「へっ、変な事じゃないもん! 挨拶だし! 上級者向けの挨拶だし!」 一方、リクの台詞にフウはぶんぶんと腕を振り回して憤慨する。 ……上級者向けの挨拶って…………。 ……あぁ、うん。そうか。 じゃあ、フウが今俺にした“挨拶”を、リクとクウカイが完璧に交わし合えたら全部水に流そうじゃないか。
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