演劇

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「実はさっき、僕達の間でちょっとした勝負をしててさ。それで、その勝負に負けたユキちゃんがペナルティとして屋台の方にね」 学院本棟の方を親指で指し示すのと同時に、俺に向けて謎のウインクを行った彼は、 「……それじゃあ、今度は僕達の方から訊いてもいいかな? アリシアさん達は、ここで何やってたの?」 相変わらずの穏やかな態度で、けれど、有無を言わせない堂々とした口調と共に俺に尋ねて来た。 「あ、アタシ達は……」 しばし返事に窮(きゅう)しつつも、話しの流れ的に順当なリクの問い掛けを突っぱねる理由などは、当然ながら存在しない。 「……実は、その、『演劇』の特訓を…………」 出来れば秘密にしておきたかった事だが、俺はやむなく彼らにこちらの事情を説明したのだった。 リク達に『演劇』の練習の事を話した俺は、その後、昼寝から目覚めたエルと一緒に講堂の中へと戻ったのだが……。 ……どういう訳か、本日の昼以降の練習にはフウ達も参加する事になって…………。 というか、こちらの事情を聞いたフウが、「えっ、何それ大変じゃん! それなら私達も練習手伝うよ!」と、くりくりしたおめめを輝かせて、強引に練習に入り込んで来たのだ。 『完全に興味本位です!』と言わんばかりの彼女のきらきらした横顔を尻目に、俺は、『……目が覚めたら、世界の全てが変わっていました…………』と言わんばかりのぼーっとした表情のエルに向き直った。
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