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彼女のそばまで歩み寄って、「どうしたの？」と尋ねると、
「ここ……。ここの台詞なんだけど、ちょっとアリシアちゃんに読んで欲しくって」
開いた台本を俺に差し出して、フウは台詞の一つを指さした。
「う、うん。えっと……。『……あなた。私にこんな真似をして、いったいどういうつもりなの？』」
促されるままに、指示された言葉を口にした。
次の瞬間。
ガバッ！
突然、フウが勢いよく飛びかかって来た。
「っ！？」
咄嗟の事に目を白黒させながら、一瞬で俺の体にしがみつき、こちらの身動きを封じてしまったフウの顔を見下ろすと、
「『どういうつもりかって……？ 姫君は、ご自分の身に何が起きてるのか、未だに理解されていないのですか？』」
彼女は、貼り付けたような下衆(げす)い笑顔と共に俺を見上げ、外連味(けれんみ)たっぷりに悪役の台詞を口にした。
……あ、あぁ。うん。なるほど。
つまり、この茶番に付き合って欲しいのか。
心の中で密かに納得して、そっとため息をつきつつも、
「『っ！ は、放しなさい！ この無礼者！』」
俺は、じたばたと暴れるお姫様の演技を交えながら、即興の悪者に身を落としたフウに応じた。
「『くっ！ ははははは！ いやはや可愛らしいですねぇ。アデレード様は』」
ちゃっかりこちらの胸元に顔を埋めて、さわさわと俺の体の色んなところをまさぐるフウはとても楽しそうな様子……。
……っていうか、おい！ こんなアクションは原作に無いぞ！？
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