演劇

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ドキリと跳ね上がった俺の鼓動に気付いたのかどうかは定かではないが、こちらの内心の動揺具合に比例するようにフウの悪乗りは更に加速していく。 「『……さて。アデレード様。あなたは、せっかく手に入れた大事な“交渉材料”だ。なので我々としては、今すぐにでも王との話し合いに臨みたいところなのですが…………』」 ちらりと、フウは傍らに立っていたリクを一瞥してから――。 ドン! 彼の方に向けて、少し乱暴に俺の体を突き飛ばした。 よろめきながら数歩後退した俺は、今度は待ち構えていたリクに両肩を掴まれて拘束されてしまう。 咄嗟の事に驚いて、思わずびくりと体を強張らせている内に、フウは悠然とこちらに歩み寄って……。 くぃっ。 伸ばした片手で俺のあごを少し持ち上げつつ、同時に背伸びをして互いの身長差を埋めながら、 「『……しかし、その一方で、あなたは簡単に手放してしまうには惜しいほどの上玉だ』」 得意げな顔で、悪党の常套句(じょうとうく)みたいな言葉を口にした。 というか、 「……フウちゃん、何言ってるの? 今のって、台本には載ってない台詞だよね…………?」 「『……せ、せっかくですから、少し我々と遊んで戴きましょうか』」 真顔でツッコんだら、震えた声のアドリブが返って来た。
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