演劇

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(助けて、エル……) 演技ではない、心からの願いと共に見やったその彼女は今……。 ……こちらから少し離れた位置でお行儀よくお山座りをして、興味深そうに事のなりゆきを見守っていた。    深紫色の瞳をまるで子どものようにきらきらとさせて、とても面白そうに……。 (……ね、ねぇ。ちょっと、エル?) ぱちくりと何度か瞬(まばた)きを繰り返して、俺は彼女に『早く助けて』と訴えかけるものの、一方の彼女は笑顔で小さく手を振り返してくるだけ。 ……あの、エルさん? だんだんと胸の内を不安で満たされていく俺をよそに、エルは再び観客の姿勢になると、また、食い入るような眼差しをこちらに注ぎ始める。 ……っていうか、俺達の茶番に集中し過ぎてるせいで、太ももと太ももの間から丸見えになっているパンツにも気付いていな――。 「『どうしました、アデレード様? いくら待っても騎士団長殿はおいでになられないようですが……』」 にまにまと嫌な笑いを浮かべながら、フウが顔をぐっと近づけて来た。 「『そ、そんな事はありません。彼は、必ず……』」 思わず彼女の台詞に言い返そうとした瞬間。 ぐいっ! 不意に、フウが俺の胸元に両手を添え、強く押した。
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