演劇

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その勢いで軽く背後によろめいた俺は、直後。 ぎゅうっ! まるで示し合わせたようなタイミングで後ろのリクに両腕を掴まれ、今までよりもキツく拘束されてしまう。 ぐいと両手を頭上高く掴み上げられた俺は、反射的にリクの顔を鋭く睨み上げるが、 「『諦めてください、アデレード様。……あなたは、もう少し現実を見た方がいい』」 睨(ね)め付ける俺に対して、当の本人は涼しい顔で煽り文句。 ……今の台詞は彼の熱演なのか、それとも面白がって言ったのかは分からないけれど、 「ね、ねぇ。ちょっと……?」 (いくらなんでもやり過ぎだぞ、放せよ) 調子に乗った元パーティーメンバー二人のおふざけに、いい加減に腹が立ってきた俺は、ここでついに憤(いきどお)りをあらわにしかけ――。 「おい。フウ! リク! 二人とも、そこで何をやっている」 怒りに任せて悪役の二人を非難しようとした瞬間、講堂の入り口から聞こえた怒声に、思わず開きかけていた口を噤(つぐ)んだ。 見ると、そちらにはお菓子の入った袋を携えた、雪のように白い髪と、玲瓏(れいろう)な薄青の瞳の女の子、ユキヒメが立っていた。 フウ、リクと同じく俺の元パーティーメンバーである彼女は今、その細い肩をいからせて、俺に狼藉を働いている不逞(ふてい)の輩を見据えている。
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