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にこりと笑って礼を言うと、彼女は少し照れくさそうに俯いてから、
「あ、あぁ、そうだ。そういえば……」
ふと何かに気が付いたように、ごそごそと手にしていたお菓子の袋を漁(あさ)ると、香ばしい匂いのする焼き菓子の包みを取り出した。
「さっき買って来たんだ。これ、よかったら……」
差し出されたそれは、美味しそうな焼き色のついたクレープだった。
これは確か、フウ達の間で何かの勝負をして、そしてそれに負けたペナルティとして彼女が買ってきたお菓子、だっただろうか。
……ところで、いったい何の勝負をしたのだろう…………?
じっと目の前のきつね色を見つめながら、ユキヒメが負けそうな勝負内容について考えていると……。
「ていっ!」
唐突に、彼女の背後から気合の一声。それと共に視界の中を小さな影が機敏に動いたかと思ったら、
(……あれ?)
いつのまにか、差し出されていたはずのクレープがユキヒメの手の中から忽然(こつぜん)と消失。
「「…………」」
数秒ほどそろって沈黙していた俺とユキヒメは、やがて、包み紙がくしゃりと潰れるような音のした壁際の一角に首を向けた。
そこには、壁に背を預けながら美味しそうに焼き菓子を頬張るフウの姿があった。
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