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唐突に、リクが囁(ささや)いた。
「えっ……?」
「ほらほら、冷めたらもったいないしさ。こういうのって、作りたてのあったかい内に食べたいでしょ? あっ、そうだ。ねぇ、そっちのキミも一つどう?」
俺が何かを言うよりも早く、リクは無遠慮に袋の中に手を突っ込んできた。
ちょっ!? おい、こらっ!
咄嗟に文句を言おうとして、けれど、それよりも早く彼は掴み取ったクレープをエルに向けて差し出して、優男スマイル。
「はい、どうぞ」
「あっ、ありがとう……」
おずおずと手を伸ばして焼き菓子を受け取るエルを、「だ、だめだよ。勝手に――」と、俺が止めさせようとした瞬間。
「えい」
「んむっ!?」
俺は視界の外から伸びてきたリクのもう片方の手によって、温かいクレープを口腔に押し込まれた。
「っ、けほ……!」
口の中いっぱいに甘やかな生クリームと甘酸っぱい果物の味を感じながら、驚いてむせかえる俺に、
「これでアリシアさんも共犯者だよ」
リクは、自分もクレープを口にしながら、いたずらを成功させた子供のような笑顔。
……くそっ、こいつ…………。
驚きと怒りと、あと妙な悔しさのせいで、少し涙の滲んでしまった目元を拭いながら、俺は抱えているクレープの袋越しにリクをジトッとした目で睨み付ける。
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