演劇

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……もう、あまり劇の練習を出来る時間は残っていないのだ。 もともとタイトなスケジュールだった事に加え、今日は思わぬハプニングもあった。 役の練度的にはまだまだ不安が残っているのに、時間だけが刻一刻と過ぎていく。 胸の内からせり上がって来る歯がゆさや焦燥を払拭するためには、やはり、限られた時間の中で、更に稽古を重ねるしかない。 「……アタシには、まだまだ台詞とか演技の時の体運びとか、心配なところもたくさんあるから…………」 俺はエルの目を見つめ、苦笑気味に告げた。 「……だから、もっと頑張らなきゃ」 「アリシアちゃん……」 緊張の滲んだ柔らかな声音が、俺の鼓膜を小さく揺さぶる。 真っ直ぐな視線の先で僅かに揺れる深紫の瞳が、彼女の内心の動揺をしっかりと映していた。 およそ数秒間。エルは何かを逡巡(しゅんじゅん)するように、控えめに瞳を彷徨(さまよ)わせて……。 ……けれど、やがて再び俺の目を見据えると、 「ね、ねぇ、アリシアちゃん」 やがて、意を決したように切り出した。 「その……。もし、よかったら、今から私の部屋に来てくれない?」 「……えっ?」 一瞬何を言われているのか理解出来ず、思わずきょとんとする俺に、エルは少し慌て気味に続けた。
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