演劇

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……まず始めに、玄関に鎮座している動物のぬいぐるみと目があった。 クリーム色のもふもふした体毛に覆われた、つぶらな瞳のそのぬいぐるみは、どうやら羊のようだ。 ちょうど、体高は今の俺のおなかの辺りで、全体的にデフォルメされたデザインの可愛らしい羊だった。 なんとなく、『アレックス達が見たら喜びそうだなー』などと考えつつ、どこかとぼけた顔をした彼の顔を見つめて立っていたら、 「ど、どうぞ。アリシアちゃん」 既にローファーを脱いで三和土(たたき)から上がっていたエルに促され、少し慌て気味に彼女の後に続く。 「お邪魔します……」 遅ればせながら、控えめに入室時の挨拶を口にした俺は、ついきょろきょろと周りを見回してしまう。 ……今になって、少し緊張してきてしまったのだ。 なにしろ、元々がエルの好意とはいえ、女の子の部屋に呼ばれるのは初めての事だ。 自然と妙な気まずさも感じてしまう。 (と、とにかく、一旦落ち着こう) 自分よりも数歩分先を進む、ふわふわと揺れる山吹色のショートカットを見つめつつ、密かに何度か深呼吸を行っていると……。 くるっ。 不意に後ろを振り返ったエルと目が合って、俺は胸に手を添えて大きく息を吸い込んだ状態のまま固まってしまった。
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