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なぜか不思議そうな顔のエルと少しの間見つめ合ってから、俺は、そっと小首を傾げて微笑みつつ、『どうしたの?』と、視線で尋ねてみる。
とりあえず笑って誤魔化そうとした俺の心の内を知ってか知らずか、彼女はふるふると首を振って『何でもないよ』という意思表示。
再び正面に向き直ったエルは、それから少し歩調を速めて、急ぎ気味にリビングに繋がる扉をスライドさせた。
オレンジの光に照らされた室内に俺を招き入れた彼女は、
「えっと……。少し、待っててね」
まず、部屋の隅に置いてあったクッションを俺に勧めてから、おもむろに室内の小物や調度品を片づけ始めた。
演劇の練習が出来るだけの、最低限のスペースを確保するためだろう。
(部屋の片づけなら、俺も手伝っ…………いや。やっぱり、ここはおとなしく待ってよう)
一瞬、俺はエルに手を貸そうと考えて、今まさに小さなテーブルを持ち上げようとしていた彼女に声をかけようとしたものの、やはりやめておいた。
例え親切心によるものでも、自分の持ち物を勝手に他人にいじくられるのは、あまりいい気分ではないだろう。
言われた通り、俺は指示された薄茶色の毛玉のようなクッションにお行儀よく腰を下ろして、エルの仕事が終わるのを待つ事にした。
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