演劇

69/125
前へ
/500ページ
次へ
てっきり視線を上げた瞬間変な空気に包まれるとばかり思っていたので、彼女のこの反応は正直ありがたかったが……。 ……ただ、なんというか、その…………。 少しばかり反応が淡泊過ぎる気がするというか、むしろ何も無さ過ぎて逆に心配になってくるというか……。せめて肩越しに一瞥でもくれれば、照れ苦笑の一つでも送る事が出来るのだけれど…………。 ……などという少し面倒臭いヤツみたいな事を考えながら、じっとおとなしく正座を続ける事およそ一分。 室内を簡単に片づけ終えたエルは、ここで俺が座っている部屋の隅へと歩み寄って来た。 「ごめんね、アリシアちゃん」 にこっ、と、軽く笑いかけてくる彼女に、俺も笑顔で答える。 「……う、ううん」 かぶりを振るのと共に、おそらく赤くなっているであろう顔に、いくらかぎこちない笑みを滲ませて返事をすると……。 スッ……。 直後。おもむろにエルは俺の隣に腰を下ろした。 そして、同じくスカートに跡が付かないように注意しながら、ぴとっ。 少し控えめに、彼女は自分の肩を俺の肩にくっつけ、 「……あ、アリシアちゃん。その…………」 妙にそわそわしながら、おずおずと口を開いた。 「ど、どうしたの?」 跳ね上がる鼓動を悟られないように、平静を装いつつ聞き返す。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

368人が本棚に入れています
本棚に追加