演劇

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……まぁ、いくら考えたところで今さら詮(せん)ない事だ。 ひとまず今は頭を空っぽにして、体を休める事に専念しよう。 最後にそう考え、一切の思考を打ち切った俺は、今までよりも深く頭をクッションに埋めた。 ……そうして何度か、大きく、深く、淡い洗剤の匂いを吸い込みながら、穏やかな呼吸を繰り返していた俺は…………。 やがて、初めて入った女の子の部屋の中にもかかわらず、不思議と安らいでいく心持ちと共に、少しずつ眠りへと落ちていったのだった。 「……んっ」 (くすぐったい……) 不意に、俺は左の耳の裏に感じたこそばゆさに目を開けた。 「…………」 薄い涙の膜越しに瞳に映る、薄暗い、ぼやけた世界の中。 ふわふわとした、起き抜けの意識の曖昧(あいまい)な頭で、俺はなんとなく今の出来事について考えてみる。 ……今のは、いったいなんだったのだろう…………。 何か、こう……。 ……そうだ。例えるなら、“背後からそっと、至近距離で耳元に吐息を吹き掛けられた”みたいな――。 ……などと言う事をぼんやりと考えていた矢先。 「……すぅ」 またも、俺は左耳の後ろに先ほどの感覚を感じた。 「っ……」 思わず漏れそうになった声を我慢しつつ、おずおずと背後を見やる。 すると……。
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