演劇

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「すぅ……すぅ……」 ……視線の先。 ぺったりと俺の背中に貼り付くような格好で、エルがすやすやと寝息を立てていた。 (……あ、あぁ、うん。…………ええっ!?) 状況を理解した瞬間、俺の意識は完全に覚醒した。 どきりと胸が高鳴るのと同時に、反射的に飛び起きようとして……。 ……けれど、その直前におなかの辺りを何かに強く締め付けられたせいで、俺の離脱は失敗に終わってしまった。 (なっ、なんだ……?) 狼狽気味に、自分の腹部の様子を確認すると……。 後ろから回されたエルの細い腕が、きゅっと俺のブラウスを掴んでいるのが確認出来た。 「ん、ゆっ……」 耳元に、言葉にならないエルの寝言が届くのと共に、ほとんど密着している彼女の頭がいやいやをするように左右に動いた。 「…………」 ……今のは、『行かないで』、という事だろうか? ぱちくりと何度か瞬きを行いながら、ふとそんな事を考えていた俺は……。 ひとまず、一旦逃げ出そうとするのをやめて、おもむろに口を開いた。 「え、エル……。エルちゃん?」 「……んふっ」 「ね、ねぇ。エルちゃん……」 「う……みぅ」 「ち、ちょっと、ねぇ」 軽く体を揺さぶりながら、何度となく呼び掛けてみるものの、一向に彼女が目を覚ます気配はない。
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