演劇

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一度、大きく深呼吸をしてから、俺は再び前を向いて目を閉じようとした。 (……あれ?) しかし、その直前……。 ふと、視線を外しかけたエルの耳元に、俺は何かおかしなものを見た気がした。 (今のって……) ……もう一度彼女の方に向き直り、じっと耳の辺りを凝視する。 (……やっぱり…………) エルの耳元。 ちょうど、山吹色のセミショートに隠れた耳の後ろに、“黒いコウモリの翼”のようなものが見て取れた。 (さっきまでは気付かなかったけど……) これは、女の子用の装飾品か何かだろうか? なぜだか妙にリアルな質感を持ったその翼は、安らかなエルの呼吸に合わせて緩やかに開閉を繰り返している。 まるで、直接頭から生えているようだ。 (頭にコウモリの翼……) ……そういえばこれは、魔物の『サキュバス』と同じ身体的特徴だった気がする。 二日前にエルが校庭でのイベントでしていた仮装も、思い返せば『サキュバス』だったが……。 あの時に彼女の側頭部に見て取れた翼とは、明らかにデザインが異なる。 「…………」 まさか、この羽は本物の……。 (……なんて、実は変わったデザインの補聴器か何かだったりして…………)
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