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一瞬、空気が凍り付いた。
どこかぎこちなく固まった深紫(こむらさき)の瞳に見つめられて、同じように俺も呼吸も忘れて見つめ返し続ける。
……そんな膠着状態が十数秒ほど続いた辺りだろうか。
ここで、おもむろに俺から視線を外したエルは、次にゆっくりとこちらの手元を見た。
そうして、しっかりと握られている自分の尻尾を見つめ、今度は自分の尻尾の根元を見つめ、そして再び俺の手元を確認してから、
「……っ!」
はっと、彼女は鋭く息を呑み込んだ。
「あ、あの……その、えっとっ、アリシアちゃん……。こ、これは、その……」
直後、堰(せき)を切ったように喋り始めたエルだったが……。
明らかに動揺している様子の彼女の口からは、意味のある言葉は何一つ紡がれない。
それどころか、徐々にしどろもどろになっていき、それに伴って声も可哀想なほどに震えて来てしまう。
「っ……」
今更ながら、俺は慌てて彼女の尻尾を放すと、控えめに口を開いた。
「え、エルちゃん……」
いたたまれなくなるほどの気まずさから、思わず視線を彷徨(さまよ)わせ……。
けれど、すぐに真っ直ぐエルの方へと向き直ると、今にも泣き出しそうな彼女の顔を見つめて、言った。
「「ごめんなさい!」」
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