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「……お疲れ様、アリシアちゃん」
「うん。お疲れ様」
エルの部屋にて演劇の練習を開始したおよそ三時間後。
そろそろ寮の就寝時間も差し迫って来たあたりで、俺達は稽古を切り上げる事にした。
「ふぁ……っ」
思わずあくびが漏れ、少し慌て気味に俺が口に手を添える隣で、同じく眠たげな様子のエルは可愛らしい仕草で両の目をこすった。
自分と彼女の体力的にも、どうやらこの辺りが頃合いらしい。
それでは、本格的に眠くなってくる前にこの部屋からお暇(いとま)させてもらわなくては。
よれた台本を片手に、俺は自分の部屋へと戻る前に最後に一言挨拶をしておこうと口を開きかけて……。
……キュルル。
しかし、それよりも早く今まで意識のかなたに忘れ去っていた空腹感が唐突に主張してきたせいで、咄嗟に俺は何も言えなくなってしまう。
……考えてみれば、昼下がりにユキヒメ達のクレープをもらって以来何も口にしていなかったのだ。
だから、このタイミングでおなかが鳴ってしまったのは仕方がなかったにしても、せめてエルの部屋から出るまでどうにかならなかったのか、と、胸の内で自分の胃袋に問い掛けている時、
「……ね、ねぇ、アリシアちゃん」
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