368人が本棚に入れています
本棚に追加
なぜか、少しもじもじとしながらエルが口を開いた。
「どうしたの?」
「その……。もし、アリシアちゃんがよかったら、今日は私の部屋に泊まってかない?」
俯きがちに、どこか照れ臭そうな様子で……。
けれど、上目でこちらの顔色を窺いながら、しっかりと言った。
(っ……)
瞬間、ドキッと、俺は胸が強く脈打つのを感じた。
なにしろ、生まれて初めて女の子からお泊りのお誘いをもらったのだ。
“一応”男である俺としては、当然心ときめかない事はない申し出だったが……。
「……ありがと、エルちゃん。でも…………」
やはり、そういう訳にはいかないだろう。
まず、シーマには泊まってくる事を説明していなかったし、なによりそれは倫理的にいけない事だ。
エルは、俺の事を女の子だと思って誘ってくれたのだから……。
俺がここで申し出を受け入れる事はつまり、彼女の好意につけ込んだ上、場合によっては気持ちを踏みにじる事にも繋がりかねないのだ。
だから、これ以上この部屋に留まる訳にはいかない。
「……うん。そう、だよね」
難色を示した俺を見てエルはそれとなく考えを悟ったらしく、それ以上勧めてくる事はなかった。
けれど、そのせいで僅かに影の差した、そんな彼女の顔を見据えて、
「エルちゃん。明日もよろしくね」
最初のコメントを投稿しよう!