368人が本棚に入れています
本棚に追加
シャッ!
勢いよく滑車がレールを滑って、すっかり夜の帳(とばり)が降りた外の景色が露になる。
俺とエルはしばらくの間、部屋から漏れた明かりに照らされるベランダを見つめ……。
それから、きょろきょろと二人して外の様子を窺うものの、
(……何も、いない?)
けれど、見回した視界の中に怪しいものを捉える事は出来なかった。
「……や、やっぱり、気のせいだったんじゃないかな?」
くいくいと俺の制服の袖を引いて、『ねっ……?』、と、小首を傾げるエルに、
「う、うん……」
とりあえずの返事として、俺は軽く頷きつつも……。やはり、胸に抱いた引っ掛かりを払拭(ふっしょく)しきれず、踵を返す事が出来ない。
(気のせい、だったのか……?)
自問気味にそんな台詞を頭の中で転がしてみるも結論を出せず、最終的には後ろ髪を引かれる思いを感じつつも、ひとまずカーテンを閉める。
そうして、そのまま半歩下がった俺を見て、エルはそっと胸を撫で下ろしてから控えめに俺を促した。
「それじゃあ、外まで送るから。行こ? アリシアちゃん」
(……五……四…………)
「うん。ありがとう、エルちゃん」
(……三……二…………)
ゆっくりと玄関に向けて歩き始めたエルに続いて、俺も数歩ほど歩みを進めてから……。
(……一!)
くるっ。
勢いよく身を翻し、再びカーテンに手を伸ばした。
そして。
シャッ!
(……あっ)
最初のコメントを投稿しよう!