演劇

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咄嗟に俺はサイカを睨みつけるが……。 けれどもそんな自分の瞳には、じわりじわりと涙が滲んで来てしまう。 ……『イザナギ』での一件で、彼が俺よりも遥かに力で勝っている事は既に分かっている。 加えて、もしも彼が俺の推測した通りの目的でこの場にいるのだとしたら……。 そこまで想像した時、俺はついに胸の内から湧き上がってくる本能的な恐怖を押さえきれなくなりかけて――。 「……アリシアちゃん?」 危うくしゃくり上げそうになった瞬間、背後からのエルの声を耳にして、どうにか冷静さを取り戻す。 肩越しに振り向くのと同時に、ちょうど歩み寄って来た彼女が俺の両肩に手を置いた。 「っ……」 すると、俺の体が小刻みに震えている事に気付いたのだろう。エルは、はっとして尋ねて来た。 「……どうしたの?」 「う、ううん……。なんでもないよ」 貼り付けた笑顔で返事をしつつ、そっと彼女に背中を預ける。 そんな中で、俺はちらりと上を窺ったが……。 先刻、いつの間にか上階の手すりに移動していたサイカの姿は、またしても影も形も無くなっていた。 今度こそ逃げたのだろうか……? 密かに目元を拭いながら考える俺は、気遣うようなエルの声音に促されてすぐに室内へと戻った。
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