演劇

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       10 (……び、びっくりした) ベランダにて予想外の不審人物を目撃してから、しばらくした後……。 早鐘を打っていた鼓動がようやく落ち着いて来た事を胸に手を当てて確認しつつ、 「ねぇ、エルちゃん。……その、やっぱり今日は泊めてもらってもいい?」 俺は、おずおずとエルに尋ねた。 ……流石にあの不審者を見た後で、一人で自分の部屋に帰ろうとするのは怖い。 いや、例えエルについて来てもらったとしても怖いものは怖い。 ……というか、そもそも“あいつ”の目的がいまいち分からない以上、少しでもエルの身に危険が及ぶ可能性のある行動を取る訳にもいかない。 そして、部屋に戻る事が出来ないのなら、残された選択肢としてはもう、このままここに留まる他は無い。 「うん!」 翻意した俺を、エルは快く受け入れてくれた。 ありがとう! と、彼女に心からの感謝の言葉を述べながら、同時に、俺は密かに“困った時の最終手段”を行使する事を決意したのだった。 「……もしもし、ジャン?」 エルに一言を告げてトイレに立った俺は、しっかりと入り口の扉を閉めた事を確認してから、密かにジャンとの通信用術式を作動させた。 本当ならあの男を頼るような真似は絶対したくなかったのだが、この際、背に腹は代えられない。
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