演劇

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ほどなくして、俺が手にしているお札に描かれた幾何学模様から張りのあるテノールの声音が聞こえてきた。 『こんばんは、レオンくん。どうしたの?』 「……こんばんは、ジャン。えっと、実はその…………」 しばし往生際悪く言い淀みながらも、やがて、俺はぼそぼそと用件を口にした。 「ちょっと、ジャンにお願いがあって……。一つ、シーマに伝言を頼みたいんだ」 『ははは。キミが僕にお願いなんて珍しいね。シーマちゃんに伝言かい?』 「あぁ……」 どこか面白がるように返事をしたジャンに、俺は今の自分の状況とこれまでの経緯を手短に説明した上で、今日はルームシェアをしているシーマ達との部屋には戻れそうに無い事を伝えて欲しいと頼んだ。 『なるほどね。うん、分かったよ』 「……ありがとう。それじゃあよろしく――――」 素っ気なく礼を言って、通信を終了させようとした瞬間。 『レオンくん。ところで、“彼”の事なら気にしなくても大丈夫だと思うよ』 「えっ?」 『何か根拠があるわけじゃないけど……。それでも別に、そんなに怖がらなくても平気なんじゃないかなってね。僕はそう思ってさ』 「いや、でも……」 『心配性だね、レオンくん。……それとも、そんなにあの男の子の事が気になるのかい?』
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