演劇

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……おかげで、現在は部屋の隅で正座をしながらじっと下着が乾くまで待機を続けている有様だ。 ちらりと窺った備え付けの時計の文字盤では、そろそろ半裸の格好で待ち始めてから十分ほどが経過する頃だったのだが……。 しかし、今の俺の意識は既にパンツから自分自身の事へと移りつつあった。 ……いや、ね、その…………。 知り合って間もない女の子の部屋の片隅でね、前から見えないように必死にシャツの裾を引っ張りながら俯き続ける今の自分ってどうなんだろうってね……。 成り行き的に多少は仕方がないのかもしれないけれど、やはり筆舌に尽くしがたい恥ずかしさというか、良心の呵責(かしゃく)すら覚えてしまうほどの精神的圧迫感に苛(さいな)まれてしまい、俺は思わず自己防衛気味に半ば放心してしまう。 「はぁ……」 こんな姿は、とてもシーマ達の前では晒(さら)せないなぁ……。と、おもむろに、どこかぼんやりとした頭で考えている時、 「はい、アリシアちゃん」 スッと目の前に、視界の外から湯気を立てるマグカップを差し出された。 顔を上げると、俺の顔を覗き込むようにしていた笑顔のエルと目が合って……。 数秒ほど、俺はぼけっとしたまま彼女と見つめ合った後、 「……あ、う、うん! ありがとう、エルちゃん」 はっと我に返って、慌ててカップを受け取った。
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